◇クロンチョン・トゥンガラ【Kroncong Tenggara】
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クロンチョン・トゥンガラ「Kroncong Tenggara」
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インドネシアを代表する気鋭のミュージシャンたちが結成した楽団が国民音楽クロンチョンの蘇生を目指し、ミクスチャー音楽の多様性に焦点を当てたアルバム。
ハワイアンやジャワのチャンプルサリといった、これまで行われてきた別ジャンルとの融合は注意深く避けたが、ロックやポップスに慣れ親しんだ耳に媚びるのでもない。全編でクロンチョンの歌謡性はそのまま生かし、アコーディオンやクロンチョン・ギターなどアコースティックな楽器の温もりを伝える好盤となった。
ヒップホップバンドのボンダン・プラコソも、クロンチョンを挿入した曲をリリースするなど、「温故知新」をテーマにしたような曲が少しずつ増え始めた。
歴史のある音楽だけに、新たな音色に違和感もあるが、一回だけの企画ものにするのではなく、今後も継続してほしい試みだ。
◇フィキー・シアニパル【Toba Dream 3】
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フィキー・シアニパル「Toba Dream」
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北スマトラ州トバ湖周辺で歌い継がれてきた歌を、現代的なアレンジでよみがえらせた三部作の最後を飾るアルバム。ジャカルタ在住のバタック人の新進男性歌手・ミュージシャンが、自らのルーツをたどった貴重な試みだ。
オリジナル曲も収録した二〇〇二年の一作目から五年。完結編の本作は、(1)(2)(3)をはじめ、外国人にも知られるバタックの最もオーソドックスな曲を中心に収録。カロ(5)、マンダイリン(4)(9)など、五つの小民族で構成されるバタックの代表曲もカバーした。
バタックの歌を初めて聴く人にも配慮し、全体的にはイージーリスニング風に仕上げ、ややドラマチックに原曲を脚色した。フィキーは「地方ポップスの歌手ではない」と、各地の歌を取り上げた「インドネシアン・ビューティー」も発表。現在、最も注目すべき新世代のミュージシャンの一人だ。
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グリガ「Dang Bulan Nan Julang」
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◇グリガ【Dang Bulan Nan Julang】
マレー半島やスマトラ、カリマンタン沿岸部などに広がるムラユ(マレー)文化圏を視野に入れ、「マレー・ジャズ」を標榜するリアウのグループの新作。二〇〇七年には、ジャワ・ジャズ・フェスティバルにも出演するなど、地方でのみ活動していた実力派がジャカルタでもようやく注目を集めつつある。
このアルバムでは、プカンバルの作家ユスマル・ユスフの詩を六曲に採用。フュージョン寄りのアルトサックスやキーボードに対抗するかのように、アコーディオンやバイオリンでムラユ色を出す。技巧派ミュージシャンぞろいだ。
リーダーのエリ・ボブは、マレーシアの実力派女性歌手ノラニザ・イドルスのレコーディングなどにも参加したことがあるベテラン。プカンバルでは伝統音楽のアルバムをプロデュースしているという。
◇ソル・プロジェクト【Indonesian Latino Grooves】
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ソル・プロジェクト「Indonesian Latino Grooves」
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インドネシア人とコロンビア人の混成グループのデビュー作。インドネシアの伝承歌や過去のヒット曲を、サルサやクンビア、グアヒーラ、チャチャチャなどのラテン音楽でアレンジしたユニークなアルバム。
バラエティーに富むジャンルから選出。スンダ(西ジャワ)の名曲(1)、一九八〇年代ポップス(2)、九〇年代のディスコ・ダンドゥット(3)、欧州で活躍する女性歌手アングンのヒット曲(5)、ジャワの名曲(6)。パンクバンド、ネトラルのヒット曲をクロンチョン〜ラテンにした(4)も。スペイン語や英語バージョンも収録。ダンスフロアの客をノンストップで踊らせてしまうような曲が並んだ。
ラテン風のアレンジに仕上げるのに適した曲ばかりとは言えないが、このアルバムを出発点にインドネシアのラテングルーブを深化させてほしい。
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ザ・ヌヌンCS「Terima Pesanan」
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◇ザ・ヌヌンCS【Terima Pesanan】
クロンチョンやダンドゥットでコミックソングを披露するバンドを多数輩出してきたインドネシア大学(UI)出身の最も新しい世代のグループ。
揚げ物の露天商を歌った(2)、ダンドゥットのフォーマットが固まる前の六〇年代後半、ポップ・ムラユと呼ばれたポップスのような(5)や(7)、「ダンドゥットの王様」ロマ・イラマ張りの(9)。バラード(6)にはさりげなく横笛スリンを挿入。マンドリンが全曲で活躍し、近年のダンドゥットがマンドリンのパートをエレキギターで代用することで失った温もりを回復させた。アマチュアっぽいノリで、ストリートミュージックでもあった風通しの良いダンドゥットを満載した。
プロジェクト・ポップなどを生んできたバンドンのパラヒヤンガン大学とUIのコミックバンドは、サウンドもお笑いも独自の伝統があり、比較してみるのも面白い。
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スジウォ・テジョ「Yaiyo」
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◇スジウォ・テジョ【Yaiyo】
ダラン(ワヤン遣い)、俳優、ジャーナリスト、最近は画家の肩書きも加わった鬼才スジウォ・テジョの二年ぶり四作目。
前衛的な展開を随所で見せ、マドゥラ語の歌なども収録した前作と比べ、今回は全曲インドネシア語で政治社会批判を中心にした歌が並ぶ。「自分が大統領だったら」と歌う(1)、「汚職指導者を見習う国民」と皮肉る(3)、動物に例えた閣僚を列挙して批判する(6)。アラブ風のブラスも挿入した(8)やスイングジャズ、レゲエなどで仕上げた曲もあるが、主役はダランのようなスタイルで、つかみどころのないテジョ節を披露するボーカル。
演劇やダンスで共演するなど、マネジメントの拠点にしてきたEKIから独立、自主レーベルからの発売となり、販路が限定されたのが残念。テジョのワンマンぶりを制御し、サウンド面でもサポートできる人材が必要だ。
◇ウウット・プルマタサリ【Dewi Malam】
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ウウット・プルマタサリ「Dewi Malam」
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インドネシアのダンス歌謡として人気のダンドゥット。このアルバムはマタ・バンドのロックバージョンもヒットした(2)「クタウアン」を収録した中堅女性歌手ウウット・プルマタサリの新作。浮気が発覚した男性をとがめる歌詞で話題となったが、ダンドゥットというよりはポップス風。むしろタイトル曲(1)やテレサ・テンのカバー(3)、スンダ風(6)、バニュワンギ風(9)などの方が庶民的なダンドゥットの持ち味が生かされている。
ダンドゥットの新作は数も限られているが、さらにCDでリリースされるアルバムとなると数枚のみ。別の歌手が大ヒットさせ、中・下級クラブでも頻繁にかけられたチープな打ち込みのディスコ・ダンドゥット「クチン・ガロン」などもあったが、一年に一、二曲しかヒットを生み出せないのが、低迷期を迎えて久しいダンドゥット界の現状だ。
◇ベニャミン・S【Dalam Irama Pop Vol.2】
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ベニャミン・S「Dalam Irama Pop Vol.2」
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新作ではないが、二〇〇七年にリリースされた復刻アルバム。一九六〇年代以降、ブタウィ(ジャカルタ)出身の歌手・ミュージシャン、俳優、映画監督、コメディアンとして国民的人気を獲得、九五年の死後も新世代にインスピレーションを与え続けるベニャミンのポップス編の第二弾。
根強い人気の秘密は、ユーモアあふれる庶民的な歌詞にある。サッカー(1)、オランダ人の現地妻(2)、日本語などの外国語をネタにした(6)、不正徴収(9)、祈とう師の息子(14)など、ラップにも通じる早口のブタウィ弁で日常生活のひとコマを活写する。
多様なジャンルの音楽を取り上げ、生前に残した三百曲を超える貴重な音源のCD化も、ロック&ブルース編などに分け着々と進行。過去の遺産は放置されがちだが、復刻盤で注目を集める唯一無二のベテラン歌手でもある。