昨年十月、ジャカルタの独立広場で大規模な地方自治展が開かれた。全国の州や県が、投資と観光客の誘致を競い合うお国自慢の展示会は、インドネシアにも地方の時代が訪れていることをひしひしと感じさせた。
アロール県を代表し、この展示会に出席したディナ県知事夫人が、島に帰り、夫に伝えた一言は「イカットのような島独自の産業をもっと盛んにする必要がある」だった。
アロール島に生まれ育ったタカラペタ県知事は、県の生き残り策を力を込めて語る。「文化を通じ、アロールの名を世界に広めたい」。
アロール県はいま、官民一体となり伝統の手織りイカットや豊富な自然、多彩な文化を財産に、観光業の発展を目指している。
知名度を高めるため、中央政府が主催する地方自治展への参加など、宣伝活動を活発化するとともに投資誘致も積極的に展開していく方針だ。
また、人口の八割を農民が占めていることから、タカラペタ知事は、村を中心に据えた「村と農業に戻ろう」運動を提唱。県民の生活基盤を支える産業発展のスローガンを打ち出した。
|
将来の展望を語るアンス・タカラペタ県知事とディナ夫人
|
さらに、地方分権の時代を迎え、オンバイ海峡を挟んで南約三十キロの東ティモールとの国境貿易に活路を見出そうとしている。
タカラペタ知事は「海で隔てられているが、東ティモールは地理的に近い。歴史的にも深い関係にあり、われわれ県民がインドネシアの顔として接するぐらいの意気込みが必要だ」と語り、国造りに向けて動き出したばかりの東ティモールとの交易を重視する。
東ティモールが独立する前には、ディリへの空路が開けており、アロール産の魚や豚、羊の肉を売り込んだ。スラバヤ経由で日本には、建材の黒石などを輸出。今後は、アロールの特産品であるアーモンドに似たケナリ(カンラン)の実や化粧品用のビンロウジュの実、コーヒー、カカオの輸出拡大に期待をかける。
問題は交通機関の整備だ。アロール島の東に位置するマリタインの港湾整備を今年中に始めるとともに、週二便のクパン−アロール間の航空便を定着させるため、県知事は県民に、できるだけ航空機を利用するよう呼びかけている。
この一−二年、主要産業の一つであるココヤシの半分以上が害虫に襲われ、三十億ルピア以上の損害が発生した。農業の基盤整備も遅れている。
課題は山積しているが、地方分権で自治体の実力が問われる中、アロール県は州や国への依存から脱却しようと、県民を巻き込んで、イカットなどの特産品の宣伝、観光客誘致、産業振興などのキャンペーンに力を入れている。
その成果が県民の目に見えるようになるまでには、今しばらくの年月がかかりそうだ。