マリノ合意よりずっと前から住民たちは和解を訴えてきた。今ごろやっとジャカルタ政府が演出した合意など信用できない。実行が伴わない合意など望んでいない。大切な家族や友人を殺され、家を焼かれ、財産を奪われ、生活を破壊された人たちは、政府や治安部隊の頼りなさを身に染みて感じている。
■境界を越えて
しかし今回アンボンに来て驚いた。マリノ合意後、和平の機運が盛り上がっている。特にここ数日起こっていることは、一般の住民が怖くて越えられなかった境界を三年ぶりに越え、買い物や友人を訪ねている。対立していた両派が一緒に車に乗り、パレードをしたり、和解は素晴らしいと実感しながら、市内を歩き回っている。
■アンボン人の乗り
争いをやめて仲良くしよう。その方がずっと楽しい。この盛り上がったチャンスを逃してはならない。抑圧された気持ちが、今解放され爆発している。これは日本人にはできない、アンボン人ならではの乗りの良さがなす技だ。
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州庁舎前の和解の行事で、唱うボーカルグープ
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この和平ムードを盛り上げているのは歌と踊りだ。殺し合いより歌と踊りが楽しい。当たり前だ。歌と踊りならインドネシアのだれにも負けないのが、マルクの人たちだ。
■警察本部長も踊る
三月二日朝、州庁舎前で和解の行事が始まった。アンボンでは何事も始まりは歌と踊りだ。役人のスピーチの前に、もう三十分以上マルクの音楽が流れている。ハワイアン調の曲もある。太鼓をたたき、笛を吹き、皆立ち上がり踊っている。だれもこのメロディーの中では闘争意欲を失い、平和が一番と体で感じてしまう。
スピーチが十分ほどあり、音楽がかかり、また立ち上がって踊り出した。どんどん人が集まり踊りの輪に加わった。警備の機動部員も銃を担いだまま踊っている。
「豊かな自然に恵まれたアンボン」「極楽鳥が舞う平和なマルク」「ラササヤン」「シオサエアンボン」「ペラガンドンマニセ」。マルクの人ならだれでも知っている曲だ。テンションはどんどん高まった。私も一緒に歌っていた。
スナルコ州警察本部長も副知事も一緒に踊っていた。みんないい顔をしていた。とてもうれしそうだった。
■「扇動者は逮捕」
カリブの島キューバではサンバやサルサやソンのリズムに乗って、陽気に歌い踊り、苦しみを乗り越え、米国の植民地状態からの完全独立を果たしたという。
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和解の機運が高まり、州警察本部長と握手して喜ぶ人たち
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マルクでも歌と踊りで紛争をやめさせることができる。だれにも負けないマルクの人たちの歌と踊りを和平のシンボルにする。私はこれだと思ったし、これを生かさないと和解は難しいと確信した。
スナルコ本部長のスピーチがあった。あらゆる不正な武器を押収する。住民が持っているものだけでなく、警官や国軍兵士が隠し持っている武器も取り上げる。
大きな拍手が起こった。和平を妨害する者も、扇動者(プロボカトール)も強硬に逮捕する。再び拍手。そのあとも長時間お祭りムードは続いた。
しかし、それから三十分後、事件は起きた。抗争が再開されたのだ。多くの人が失望した。ああ何てことだ。